乳がんと告知された翌日。
私はいつも通り会社へ向かいました。
前日の出来事が夢だったらいいのに…。
そんな気持ちのまま出勤したことを、今でも覚えています。
これから手術や治療でお休みをいただくことになる。
まずは、一緒に働くみなさんへ報告しなければと思いました。
私は事務所のみなさんの前で、
「乳がんが見つかりました。これから手術や治療でお休みをいただくことになります。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」
そう伝えました。
幸い、当時の上司の奥さんも数年前から乳がんの治療を受けていました。
私よりもステージが進んでいて、治療もとても大変だったと聞いています。
だからなのか、病気について理解があり、私は安心して治療に向き合えると思っていました。
仕事は続けるつもりでしたし、その気持ちも伝えました。
これで報告は終わった。
そう思っていたのです。
ところが、その翌日。
業務部長から「ちょっと来て。」と呼ばれ、個室へ案内されました。
何の話だろう。
そう思いながら席に座ると、最初に言われた言葉は、
「で、やめるの?」
でした。
一瞬、言葉を失いました。
昨日、ちゃんと報告したばかりです。
仕事を続けたいという気持ちも伝えたはずでした。
それなのに、なぜそんなことを聞かれるんだろう。
正直、腹が立ちました。
「そんなに私に辞めてほしいの?」
そんな思いが頭をよぎりました。
でも私は、迷わず答えました。
「やめません。」
実は、乳がんを告知された日に、主治医から言われた言葉があります。
「がんになったからといって、会社は辞めない方がいいよ。」
その言葉が、私の支えになっていました。
だから私は、病気と仕事は別の問題だと思っていたのです。
でも、今振り返ると、一番つらかったのは部長の言葉ではありません。
あの頃の私は、人生で一番の正念場にいました。
「負けるもんか。」
「しょんぼりしていても何も解決しない。」
そう自分に言い聞かせながら、毎日を過ごしていました。
自分の体からは逃げられない。
生活からも逃げられない。
だから、前を向くしかありませんでした。
言葉には出しませんでしたが、心はボロボロでした。
手術への不安。
抗がん剤への不安。
「私は本当に治るのかな。」
そんなことばかり考えていました。
だからこそ、あの「で、やめるの?」という一言は、ただただ無神経な気がしたのです。
そして、あれから8年以上が経ちました。
今だから思うことがあります。
あの頃の私は、
「病気だからといって辞めるものか。」
「なるべく休まない。」
そんな気持ちで、少し意地になって働いていました。
でも、それだけが正解ではありませんでした。
もっと休んでもよかった。
もっと人に頼ってもよかった。
もっと自分を大切にしてもよかった。
心の傷は、頑張れば早く治るものではありません。
私の場合は、時間が少しずつ癒してくれました。
だから今、乳がんと向き合っているあなたへ伝えたいです。
一人で頑張りすぎなくて大丈夫です。
泣いてもいい。
休んでもいい。
弱音を吐いてもいい。
あなたは、十分頑張っています。
仕事も大切です。
でも、一番大切なのは、あなた自身の心と体です。
どうか、自分を責めないでください。
今では、その部長とも笑って話ができています。
人生って不思議なものですね。
あの頃は思い出すだけで腹が立っていた出来事も、今では「そんなこともあったな」と振り返ることができます。
もちろん、あの日に傷ついた気持ちは本当です。
でも、その経験があったからこそ、今の私は「頑張りすぎなくてもいい」と誰かに伝えられるようになりました。そして最後に、あの頃の私へ。
44歳の私。
君は本当によく堪えてきたね。
あの時は、それしかできなかった。
だから、それでよかったんだよ。
ありがとう。


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