2017年、ある朝のことでした。
目が覚めると、胸のあたりがひんやりと濡れている感覚がありました。
「あれ?」
そう思ってTシャツを見ると、ちょうど乳首のあたりに、透明とも黄色ともつかない液体のシミがついていました。
今さら母乳が出るわけもありません。
「なんだろう?」
そう思ったものの、その時は深く考えませんでした。
何かの偶然かもしれない。
気のせいかもしれない。
一瞬だけ嫌な予感が頭をよぎりましたが、仕事へ行く準備で頭はいっぱいでした。
実はその1年ほど前、人間ドックで乳がん検診がC判定になっていました。
すぐに病院を受診し、検査を受けたところ、先生からはこう言われました。
「両胸に石灰化がありますね。1年後にまた診せてください。」
その言葉を聞いて、
「大したことはないんだ。」
私は安心してしまいました。
一度病院へ行ったことで、自分の中では「大丈夫」という気持ちになってしまったのです。
今振り返ると、あの時もっと早く受診していれば…。
そう思うことがあります。
仕事が忙しかった。
確かにそうでした。
でも、本当に優先しなければいけなかったのは、自分の体でした。
自分の体は、一つしかありません。
その大切さに気づくまで、私はずいぶん時間がかかってしまいました。
数か月後。
お風呂上がりに鏡を見た私は、思わず息をのみました。
左の乳首が、明らかに下へ引っ張られるように変形していたのです。
鏡を何度も見直しました。
「見間違いだよね。」
そう思いたかったのに、何度見ても同じでした。
その瞬間、「これは普通じゃない」と確信しました。
胸の奥がスーッと冷たくなるような感覚。
今でも忘れられません。
「もう逃げられない。」
そう思い、すぐに病院へ向かいました。
最初に受けたのはマンモグラフィー。
胸を機械で強く挟み、レントゲンを撮る検査です。
その時でした。
胸を挟まれた瞬間、乳首から血が滲んだのです。
その光景を見て、私の胸はもうダメなんじゃないかって絶望した気持ちになりました。
続いてエコー検査。
不安でたまらず、私は技師さんに尋ねました。
「何か異常がありますか?」
すると、申し訳なさそうにこう返ってきました。
「私たちからはお答えできないんです。すみません。」
それもそうですよね。
結論を聞きたい。いや、聞きたいと言うよりもう確定なんじゃないかなって思いました。
そしてMRI検査。
乳がんのMRIは、うつ伏せで行います。
ベッドには胸の部分だけ穴が開いていて、胸を宙に浮かせた状態になります。
思っていた以上に苦しく、息もしづらく感じました。
検査室には大きな機械音が響いていて、イヤホンをつけてもらいました。
「音楽は何がいいですか?」
そう聞かれましたが、その時の私は音楽を選ぶ余裕なんてありませんでした。
「何でもいいです。」
そう答えるのが精一杯でした。
しばらくすると、検査室の様子が急に慌ただしくなりました。
何事だろう…。
そう思っていると、
左胸だけではなく、右胸にも小さながんのような影が見えるため、急きょ両胸を詳しく調べることになったのです。
頭の中が真っ白になりました。
「そんなことあるの?」
「左から右へ転移したの?」
「もしかして、もう全身に広がっているんじゃ…。」
次から次へと悪い想像ばかりが浮かびます。
左だけでも十分怖かったのに、今度は右。
不安の上に、さらに大きな不安が積み重なっていきました。
MRIの検査室を出た時のことは、正直あまり覚えていません。
ただ一つだけ、今でもはっきり覚えていることがあります。
あの日ほど、生きた心地がしなかった日はありませんでした。
もし今、この文章を読んでくださっている方が、私と同じように「何かおかしい」と感じているなら…。
どうか「そのうち病院へ行こう」と思わず、できるだけ早く受診してください。
私は、一度安心したことで受診を後回しにしてしまいました。
だからこそ伝えたいのです。
自分の体を守れるのは、自分だけなんです。私は遠回りをしてしまいました。
だからこそ、この経験が誰か一人でも救うきっかけになれたら嬉しいです。


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